世界保健機関(WHO)は、2050年までに全世界で60歳超人口が今の12%から22%とほぼ倍増する見込みであり、社会的な大変革が必要で高齢者への支出はコストではなく「投資」と考えるべきとの「高齢者と健康に関するワールドレポートWorld report on ageing and health 」を10月1日に発表しました。

報告書の主なポイントは、以下のとおりです。

1)高齢者を社会の「重荷」とする差別的な考え方があるが、年金や医療などのコストと税金や経済活動を通じた貢献を比較した結果、高齢者の社会への差し引きの貢献が約400億ポンド(約7兆4600億円)になり、2030年には770億ポンドに達するとのイギリスの研究を紹介しながら、医療や介護などの費用負担が強調され高齢者の社会貢献が過小に評価されていると指摘。政策としてもコスト削減の努力をやめ、高齢者の活動を支える投資により注力していくことが重要。

2)非常に多くの部門や影響力の大きい人たちが健康な高齢化に影響を及ぼしうるが、高齢者のニーズや希望をその中心に置いた政策や実践においては、組織的なアプローチが非常に重要になってくる。導入のための優先課題としてほぼすべての部門を横断するような次の3つのアプローチを特定した。
1. 年齢差別と戦う。
2. 自律性を可能にする。
3. あらゆる政策と政府のすべてのレベルにおいて健康な高齢化を支援する。

3)高齢化と高齢者に関する社会的通念を根本的に変えるために3つのアクションを提示。これらのアクションを実行することによって、高齢者の新しい生き方を創出できるとした。
①高齢者にとって住みやすい環境を整える。33カ国の280都市が参加するWHOのエイジ・フレンドリーシティ(高齢者にやさしい都市)のグローバルネットワークが良い例となる。

②高齢者のニーズに合った保健システムの再編、調整を行う。これは急性疾患への対応を重視してきたこれまでの体制から、高齢者に多い慢性疾患に対応する体制へのシフトを意味する。在宅ケアやコミュニティ密着型のケアモデルが必要となってくる。

③介護システムの開発を行う。政府は不適切な急性期治療を減らし、高齢者が尊厳を持って生きられるよう長期介護システムの策定に取り組む必要がある。また、家庭では家族は協力して介護に取り組み、女性を開放してもっと社会で活躍できるよう支えるべき。

日本のこれからの社会保障政策にも必要な内容が多く含まれています。ご関心のある方は、WHO高齢者報告151001world-report-ageing-exs-japanese-rev をご参照下さい。(文責 田中秘書)