石橋 屋良さん、あけましておめでとうございます。今日は、お時間をいただきありがとうございます。また、昨年末(1211日〜12日)には、わざわざ私の生まれ故郷である島根県まで来ていただいて、地元実行委員会が企画・開催した「島根で沖縄・辺野古を考える公開講演」に参加し、貴重なお話をしていただいてありがとうございました。参加者の皆さんも「今まで知らなかった辺野古新基地建設事業の問題点について知ることができて良かった」と言ってくれています。

屋良 石橋さん、あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。島根では、本当にいい機会をいただき、ありがとうございました。念願だったノドグロを島根で食べることが出来たのも嬉しかった(笑)ですが、なによりあんなにも多くの市民の皆さん、特に若い世代の皆さんが辺野古の問題に関心を持ってイベントに参加してくれて、質問もたくさん投げかけてくれたのは本当に嬉しかったです。

石橋 実は、これまでにも何度か、辺野古をはじめとする沖縄の基地問題について、ミニ集会とか関連映画の上映会などを開催してきたのですが、そもそもの問題意識は、多くの一般市民の皆さんがあまりに辺野古の問題について正しい理解がないことだったんです。これじゃダメだと、やはり正しい情報を得ていただいて、正しい判断をしていただきたいと思うんですね。そのために今回は、ぜひ県庁所在地の松江で、規模を拡大して開催したいということで、屋良さんに来て頂いたわけです。

屋良 いや、その問題意識は私もまったく共有します。辺野古の問題については、全国紙やキー局のニュースでもほとんど取り上げてくれないので、政府の一方的な説明がまるでかつての「大本営発表」のように受け止められているのではないでしょうか。

石橋 そうなんです。沖縄では、沖縄タイムズと琉球新報という地元紙が頑張っていて、基地問題について連日大きく報道していますよね?私たちも、関連する情報のほとんどを地元二紙の記事から得ています。

屋良 はい、地元紙はそれなりに頑張っていると思います。ただ、沖縄県内ですら、特に若い世代は辺野古の問題や基地問題について知識や関心がないという課題もあるんです。ですので、メディアがほとんど伝えていない県外では、状況はもっと深刻でしょうね。

石橋 だからこそ、私たちも自ら、辺野古新基地建設事業にかかわるさまざまな問題を直接発信したり、メディアに材料を提供したり、各地で勉強会などを開催して、有権者の皆さんに真実を伝えていく必要があると思っています。

辺野古新基地建設事業の問題点

石橋 屋良さんは、亡くなられた翁長雄志前沖縄県知事の後継として20189月の知事選で勝利された玉城デニーさんの後を受けて、20194月に実施された衆議院沖縄3区補欠選挙に辺野古基地建設反対を訴えて立候補され、見事、初当選をされました。当選後には、玉城デニー知事もメンバーだった私たち超党派野党グループの「沖縄等米軍基地問題議員懇談会」に加入していただいて、さっそく活発に活動して下さっています。議員懇の会合に出席してどんな感想をお持ちですか?

屋良 いや、ビックリしましたね。防衛省にしても外務省にしても、私たち議員からの質問にまったく正面から答えようとしない、資料要求をしても全然出してこない、何ヶ月か経って出してきたと思ったら黒塗りのノリ弁状態で、まったくヒドいものです。こんなヒドい対応がずっと続いているというのですから、これをもう何年もの間、根気強く続けている石橋さんたちの努力と粘りに敬意を表します。

石橋 本当にそうなんです。例えば、昨年になって政府がようやく認めた大浦湾側の「軟弱地盤問題」も、うちの議員懇ではもう3年前くらいからその存在を把握して、政府に問題追及をしていたのです。ところが政府は「地盤調査はまだ続いているので、結論は言えない」の一点張り。その間、建設工事を強行して、2018年末には遂に埋立土砂の投入まで強行してしまいました。

屋良 既成事実を積み上げて、もう後戻り出来ないんだということを印象付けようとしているんですよね。ヒドいやり方です。土砂投入から一年以上が経ちましたが、未だに軟弱地盤に対する地盤改良工事の具体的な設計は明らかになっていませんし、沖縄県に対する設計変更の申請は出されていません。もし出されても、玉城デニー知事は、変更申請は認めないと明言していますので、その時点で工事は頓挫します。恐らく国は法的な闘いを仕掛けてくるでしょうが、それによって工期は大幅に遅れます。にもかかわらず、政府は今もなお、連日の土砂投入を強行し続けているのです。

石橋 本当に、この国の民主主義、法治主義、地方自治は一体どこに行ってしまったのでしょうかね。本当に由々しき事態だと思います。実際、辺野古新基地建設事業は、多くの深刻な難題を抱えています。専門家の中には、工事は途中で必ず頓挫すると断言している方々もいるくらいです。例えば、先に触れた、大浦湾側の軟弱地盤の問題ですね。

屋良 はい。ちょうどV字滑走路の外側の突端にあたる部分ですが、そこにN値ゼロ(※N値とは地盤の土の締まり具合や強度を求める基準のこと)、いわゆるマヨネーズ状とも言われる軟弱地盤があることが判明しています。これは、もともと国が埋立承認を申請した際には想定されていなくて、埋立承認後に実施されたボーリング調査の結果で判明したんです。最深部は90メートルとされていて、地盤改良をするにしても日本でも前例のない工事になります。そもそも現時点で、日本には深度70メートル程度で工事できる作業船がたった1隻あるだけなんです。なので政府は、70メートルくらいのところはそこそこ固い岩盤があると主張して、その辺りに77千本もの砂ぐいを打ち込む計画を提案してくるようですが、相当な難工事であると同時に、果たしてそれで滑走路としての強度が確保できるのか、専門家も疑問を呈しています。

石橋 それに加えて、活断層の問題もありますね。すでに専門家が、辺野古周辺に走っている二本の断層が活断層である恐れを指摘していて、政府に一刻も早く実態調査をすべきであることを要請しています。

屋良 はい、しかし政府は「活断層はない」と、これまた一点張りです。権威ある活断層のデータベースに載っていないから、というのがその根拠なんですが、そもそもそのデータベースには「現時点で掲載されているものがすべてではない」とちゃんと明記されているんですね。

石橋 活断層については、早急に実態調査を行うべきですが、N値ゼロの軟弱地盤と活断層の存在は、あらためてこの辺野古の地が基地建設に不向きであることの証左だと思います。それを誤魔化して土砂投入を強行しても、いつか必ず大きな問題にぶち当たるでしょうね。

屋良 コストも莫大になります。そもそも沖縄県の試算では、現時点までですでに事業費は政府の当初見積もりの10倍以上、25千億円以上になっている恐れがあると指摘されています。これに大規模な地盤改良工事が追加されるわけですから、この金額では終わらないことは確実だと思います。

石橋 工期も同じですね。すでに工期は延び延びになっていて、現時点でも13年以上はかかるだろうと言われています。本当に完成まで漕ぎ付けられたとしても、恐らくはそれ以上の年月が必要になるでしょう。それまで、世界一危険と言われている普天間基地は返ってこない、つまり今のままの状態が続くわけです。

(※なお、国は、2019年末の段階で、工期は約12年、事業費は約9300億円にまで膨らむ見通しであることを公表しました。しかしこの見通しは、沖縄県の試算と大きくかけ離れており、今後精査が必要です)

辺野古基地がなくても普天間の返還は可能!?

石橋 屋良さんは、議員になる以前から、ジャーナリストとしても、シンクタンクである新外交イニシアチブ(ND)の一員としても、辺野古に基地を作る必要はない、普天間の返還は可能だと訴えて来られました。本当にそれが可能なんでしょうか?

屋良 可能です。普天間の代替施設として辺野古に海兵隊の新基地建設を決めたのは1996年のいわゆるSACO合意ですが、今から23年も前のことです。その後、国際情勢は大きく変わっていて、米軍の戦略も海外展開の方針も変更されているのです。その中で、米軍の再編成が進められていて、沖縄の基地負担軽減とも相まって、在沖の海兵隊も大きく削減されることになっています。

石橋 沖縄に残るのは、MEUと呼ばれる部隊約2200名で、地上戦闘部隊は800人しかいなくなるわけですね?

屋良 そうです。そもそも今でも、有事の際に海兵隊を紛争地まで運ぶ艦船は、沖縄にはいません。長崎の佐世保港にいるんです。つまり沖縄は、単なるランデブーポイントに過ぎないわけです。例えば朝鮮半島有事の際に、佐世保からわざわざ沖縄に海兵隊を乗せにいって、また朝鮮半島に戻るなんて、実はまったく非効率だし抑止力にならないわけです。

石橋 朝鮮半島を念頭におくならかえって地理的にも戦術的にも不利になるということですね?

屋良 はい。このことは、米軍側も認めています。米軍の戦略上、海兵隊が沖縄にいる必要はないと。さらに、安倍総理も実は国会答弁で、過去にそのことを認めています。国内の他の地域でもいいのだが、受け入れ先がないから沖縄なんだと。つまり、政府が壊れたテープレコーダーのように根拠なく繰り返している「沖縄が唯一の選択肢」というのは、抑止力とか米軍の戦略上の必要性とかは関係ないんです。

石橋 そもそも戦闘兵力が800人しか残らなくて、しかも年間の半分以上はアジア太平洋地域の米軍基地をローテーションで回っていて沖縄にはいないわけですよね。かつ平時には、ヘリを4機ぐらい使って訓練ができればいいだけの話です。であれば、沖縄である必然性はないし、仮に沖縄で訓練をするにしても、すでにいくつもあるヘリパッドを使えば十分に対応可能です。世界有数の辺野古・大浦湾の自然を破壊して、莫大な国民の税金を浪費し、恐らくは10数年以上の歳月をかけて新基地を建設する必要などまったくないわけですよね。

逆に辺野古新基地が出来ても普天間基地が返還されない可能性もある?

石橋 しかも政府は、世界一危険な普天間基地返還のために辺野古新基地が必要なんだと言って、あたかも辺野古に基地が出来ればそれで普天間が返ってくるような印象操作をしていますが、実はそうではないんですよね。

屋良 はい、普天間返還8条件(※右図参照)というのがあります。そのすべての条件が整った時に普天間を返還するという日米間の合意ですが、裏返せば、その条件がすべて整わないと、普天間基地は返還されないわけです。

石橋 そして、8条件のうち、特に④の「緊急時における民間施設(飛行場)の使用の改善(確保)」という要件については、未だに日米間で整っていません。この重大な事実も、2年前に当時の稲田朋美防衛大臣が国会で「この条件が整わなければ、普天間は返還されない可能性がある」と明確に答弁しているのです。

屋良 そして、日本政府は認めていませんが、米国政府の内部文書にはすでに言及があって、この民間飛行場というのは、おそらく那覇空港でしょう。しかし米側が緊急事態だと言って那覇空港を閉鎖し、米軍が占有するようなことは認められないし、認めるべきではありません。だから未だに合意が整っていないのではないか、いやもしかすると、すでに合意があるのに、表に出せないから隠しているのではないかとも危惧しています。

石橋 政府は、海兵隊を日本に繋ぎ止めておくために、沖縄ありき、辺野古ありきで基地建設を強行に推し進めています。しかし、ここで屋良さんに解説いただいたような事実、国民にとって大事な情報はひたすら隠し続けています。こんな不当な行為を、これ以上続けさせてはいけないと思います。ぜひ民主主義を守り、平和な日本とアジアを次代につないでいくために、これからも力を合わせて頑張りましょう!

屋良 はい、埋立はまだ事業全体の1%程度に過ぎません。闘いはこれからだと思っています。沖縄県民の代表としてもこれから頑張っていきますので、引き続き宜しくお願いします!